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インターネット検索事業の意義とプライバシー

インターネット検索事業の意義とプライバシー

 

第1 事実の概要

 Xは、児童買春をしたとの被疑事実に基づいて、児童ポルノ処罰法違反容疑で、平成23年11月に逮捕され、同12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。Xは当時サッカー選手だったため、インターネット上のウェブサイトで逮捕当日に報道され、それがインターネット上の電子掲示板などに多数回書き込まれた。

 Xはその後、罪を犯すことなく、妻と幼い子とともに平穏な生活を送っている。また、政治的・社会的な団体等に所属するなど社会に影響を与える活動はしていない。

 一方、グーグルは、インターネット上で検索サービスを提供している。利用者がグーグルでXの居住する件と名称及びXの氏名を条件として検索すると、当該利用者に対して、逮捕事実が記載されたウェブサイトのURL並びに表題及びディスクリプションが表示される、というのである。

 Xは、人格権に基づく妨害排除請求、妨害予防請求に基づき削除の仮処分を求めたところ、さいたま地裁平成27年6月25日決定は仮処分命令を出し、グーグルの異議申立てに対して、仮処分の認可決定を出した。グーグルは保全抗告を申立て、保全抗告審である東京高裁平成27年12月22日決定は、Xの被保全権利である「忘れられる権利」、プライバシー権、名誉権いずれも否定して、グーグルの保全抗告を容れた。これに対してXが許可抗告の申立てをしたところ、原審が抗告を許可し記録が最高裁に送られたものである。

 

第2 決定の要旨(一般論)

3(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである。

他方,検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものである。

この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。

検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。

検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものである。

その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

 

第3 決定の要旨(あてはめ)
 (2) これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めている。

児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。

また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。

 

第4 前科の「プライバシー該当性」について

 本決定は、あてはめも含めてみるとき、実質的に前科を時の経過の有無に関係なく、ストレートに「プライバシーに属する事実」として扱っている。

 本決定も引用するノンフィクション「逆転」事件では、「更生を妨げられない」利益に言及する一方で、小説であるので私生活上の利益か議論の余地があった。また、長良川事件報道事件最高裁判決は、犯罪の被疑事実を「プライバシーに属する事実」ととらえていた。しかしながら、本決定は略式罰金命令が確定した後のものであり、本決定は、確定前科をプライバシーに含めた判例ということができる。

 

 

第5 表現行為としての検索結果提供の意義

 グーグルは検索結果は「表現行為」ではなく「媒介者」にすぎないと主張していたが、常識的に考えてグーグルが、検索結果に作為も加えているのであって、「表現行為」に該当しないという主張は無理があるように思われる。

 

第6 削除請求の可否の判断基準とその射程

 本決定が引用する「石に泳ぐ魚」事件最高裁判決は、最高裁がプライバシー侵害を理由とする差し止めを認めたものである。この判断枠組みは、名誉、プライバシー、名誉感情等様々な被侵害利益を取り上げている。したがって、最高裁が、プライバシー侵害の規範を定立したものとはいえなかった。

 本決定は、最高裁が一定の規範を示したとはいえるが、実質は様々な被侵害利益を取り上げる判断枠組みであることは、「石に泳ぐ魚」事件最高裁判決と変わらないと思われる。

 

第7 前科の削除

 本決定は、「当該事実を公表されない法的利益」が「当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情より提供する理由」が「優越することが明らか」であることを求めている。従って、これまでのアドホックバランシングとは異なる一方で、優越の明白性を求めていることから、前科の削除に関してかなり厳しくなっていると思われる。

 本件では、明白性を要求する趣旨が問題となる。というのも、ノンフィクション「逆転」も、長良川事件報道事件最高裁判決も判断枠組みは似ているものの、明白性までは求められなかったからである。

 一方、名誉毀損を理由とする事前差し止めを求める仮処分の北方ジャーナル事件最高裁判決では明白性の趣旨が求められている。

 

第8 射程距離

 本件で明白性を要求されているが、差し止めを求める場合に求められる場合、明白性が要求されるとなると、前科の削除も明白性が求められる。

 次に、仮処分事案だからという見解もある。これによれば本訴請求の場合は明白性の原則が外れる可能性がある。

 最後に、検索事業者が情報の流通過程にあるいう役割の重要性という見解である。これによっても前科の削除は難しくなるように思われる。

 少なくとも仮処分であることに理由を求めると、明白性が本訴では求められないことになる。

 

第9 まとめ

検索事業者の媒介者論を採らずに印刷メディアの伝統的な法理を出発点とするにしても,「石に泳ぐ魚」事件の上告審判決である最三小判平成14・9・24集民207号243頁,判タ1106号72頁は,控訴審が差止めを認めた結論を「違法でない」と判示したにとどまり,控訴審の示した差止めの要件に関する法理を積極的に是認したといえるものではない上,原決定のように,被害の明白性,重大性や回復困難性にとどまらず,検索サービスの性格や重要性等も考慮要素として取り込む判断枠組みを採ることは,人格的な権利利益の保護範囲を事実上切り下げることになることが懸念される。
 本決定は,以上のような点を踏まえ,印刷メディアの伝統的な法理に沿った比較衡量の判断枠組みを基本としつつ,保護範囲の切り下げを回避しつつ、削除の可否に関する判断が微妙な場合における安易な検索結果の削除は認められるべきではないという観点から,プライバシーに属する事実を公表されない利益の優越が「明らか」なことを実体的な要件として示したものと思われる。
 5 検索事業者が提供する検索結果は,あるウェブサイトに関し,その所在を識別するURLのほか,当該ウェブサイトの表題(タイトル)及び抜粋(スニペット)で構成されるのが一般的であるが,本決定は,これらを一体として削除しようとする典型的な場面を想定した判断枠組みを示している。その背後には,検索事業者の提供する検索結果の中核的部分は飽くまでも収集元ウェブサイトの所在を識別するURLであり,表題や抜粋は収集元ウェブサイトの掲載内容を推知させる参考情報にとどまるという認識があり,利用者の収集元ウェブサイトへのアクセスを遮断させるために必要な要件という観点から,出版メディアとの共通点や相違点を踏まえた考慮要素が列挙されたものと思われる。
 本決定の列挙した考慮要素の検討に当たっては,収集元ウェブサイトの内容を吟味することを要するが,当該内容は,ロボット型検索エンジンの一般的な仕組みに照らすと,検索結果の内容から容易に推認可能なことが多いであろう。もっとも,収集元ウェブサイトの内容について個別に主張,立証することを本決定が否定するものではないと思われる(本決定ではその種の主張,立証はなかったことがうかがわれる。)。
 以上の点に関し,我が国においては,従前,表題や抜粋(のみ)の削除の可否と,URLの削除の可否を分け,URLの削除には厳しい限定を付する議論が有力であったが,URLのみの検索結果を散在させることは,かえって利用者の関心を惹いて収集元ウェブサイトへのアクセスを助長する結果ともなりかねず,問題があるように思われる。本決定が,削除対象を「URL等情報」としたのは,このような考慮があったものと思われる。
 6 本決定は,検索事業者に対し,自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果から削除することを求めるための要件について,統一的な判断枠組みを初めて示したものである。本決定は国内外で広く報道されているほか,本決定の示した判断枠組みは裁判内外の実務に大きな影響を及ぼすものであり,理論上及び実務上,重要な意義を有するものと思われるので,紹介する次第である。しかし,他方において,インターネット上においては,名誉やプライバシーを侵害する表現が世界中から閲覧可能な状態に置かれうること,検索サービス等の利用により当該表現に容易にアクセス可能であること,インターネット上の表現は短時間で容易に複製・拡散されること等を考慮すれば,検索結果からの情報の削除請求を認容すべき場合が生じることは当然予想される。この点,本決定の示す「事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」とはどのような場合かについて,今後の事例の集積と議論の展開が期待される。本件では、都道府県を容れないと検索結果が表示されない点など限定されていることが注目される。しかし、本件はインターネット上で入手された男児のわいせつ画像を公然陳列したというものであり、実在する児童に直接的にわいせつ行為をしたものではなく、悪質性はとぼしく、ここまで社会公共の関心事とされると、微罪も含めて、プライバシーが守られる場面がほぼないことになるのであって、矛盾する判例というべきであり、「忘れられる権利」や「更生する権利」の確立が重要と思われる。

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