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再雇用、賃金を75%減は違法、トヨタ判決に続き違法―九州惣菜事件

 定年後の再雇用契約を巡り、九州惣菜から賃金の75%カットを提示され退職した元従業員の女性が、勤めていた九州惣菜に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(木沢克之裁判長)が原告、会社双方の上告を不受理とする決定を出した。

 これにより、定年後の極端な労働条件悪化は、65歳までの継続雇用を義務付けた高年齢者雇用安定法の趣旨に反するとして、会社に慰謝料100万円を支払うよう命じた2審・福岡高裁判決が確定した。福岡高裁判決は平成29年9月7日付。

 2013年施行の改正高年齢者雇用安定法は、企業に希望者全員を65歳まで雇用するよう義務付けたが、多くの企業は賃金の安い非正規契約で雇用を継続している。

 昨年9月の福岡高裁判決によると、北九州市の食品会社で正社員として働いていた女性(63)は15年3月末に60歳で定年を迎えた際、パート勤務で定年前の賃金の約25%とする労働条件を提示された。女性はフルタイム勤務を希望したため再雇用契約は合意に至らず、退職を余儀なくされた。

 福岡高裁は再雇用の際の労働条件について「定年の前後で継続性・連続性があることが原則」との解釈を示したうえで、収入が75%も減る労働条件の提示は「継続雇用制度の導入の趣旨に反し、違法性がある」と判断した。

 定年後再雇用における労働契約関係の存否については,典型的には,労働者が再雇用を希望しているにもかかわらず会社がこれを拒否した場合に問題となるが,前掲・津田電気計器事件は,被上告人労働者において「契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある」などとして雇止めの効力を否定して,労働契約関係の存続を認めた。

 これに対して,全国青色申告会総連合事件(東京地判平24.7.27労経速2155号3頁)は,雇用継続に対する期待は合理的なものではないとして,再雇用に基づく労働契約の存続を否定した。本判決と同じようにして,「再雇用契約における賃金の額が不明である以上,原告と被告の間に再雇用契約が成立したと認めることはできない」とした例(日本ニューホランド〔再雇用拒否〕事件・札幌高判平22.9.30労判1013号160頁)もある。

 再雇用における賃金額に関して,本件では定年退職前の8割の水準が争われたところ,長澤運輸事件一審判決(東京地判平28.5.13労判1135号11頁)は,労働契約法20条に基づいて,再雇用された労働者に正社員就業規則を適用することを求めたが,同事件二審判決(東京高判平28.11.2労判1144号16頁)は,「年収ベースで2割前後賃金が減額になっていることが直ちに不合理であるとは認められない」などとして労働契約法20条違反を否定し,一審判決を取り消して労働者の請求を棄却した。
 

 もっとも,本件事案のように再雇用契約が成立していない場合には,前掲・長澤運輸事件一審判決のように,正社員就業規則の適用を肯定することはもとより困難であると考えられる。

 本判決は,著しく低い賃金を提示した会社の不法行為責任を認めることによって,一定の範囲で,労働者の救済を図ったものといえるが,定年前に従事していた職種とは全く異なった別個の職種を提案した事案について会社の不法行為責任を認めた例(トヨタ自動車事件・名古屋高判平28.9.28労判1146号22頁)もある。

 これに対して,同じく雇用契約が継続していたものの、不法行為責任が否定されたものとして、L社事件(東京地判平28.8.25労判1144号25頁)がある。そして、定年前後の「賃金の差異が社会通念上相当と認められる程度を逸脱し,不合理な差別と認められる場合には,このことが被告の原告に対する不法行為の権利侵害に当たる場合もあり得る」としつつ,原告が60歳に達しない者のおおむね8割程度の年収を得ていたなどとして,会社の不法行為責任を否定した事例も存在する。

 このように、必ずしも定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが原則とはいえ、賃金の保障や職種の変化の程度によっては、再雇用による継続雇用の条件の変更は認められるものと考えられる。本件では、再契約に至らなかったことが、一つの判断のポイントになっているように思われます。

 

2) 争点(2)について
 ア 緒言
 高年法9条1項2号に基づく継続雇用制度の下において,事業主が提示する労働条件の決定は,原則として,事業主の合理的裁量に委ねられているものと解される。控訴人は,被控訴人のした本件提案には,被控訴人の裁量権を逸脱した違法があると主張するので,以下,この点につき控訴人の主張に即して判断する。
 イ 労働契約法20条違反を主張する点について
 控訴人は,本件提案が労働契約法20条に反すると主張する。しかし,同条は,「有期労働契約を締結している労働者」の労働契約の内容である労働条件について規定するものであるが,控訴人は,定年退職後,被控訴人と再雇用契約を締結したわけではないから,本件において,少なくとも直接的には,本条を適用することはできないというべきである。仮に,本件提案のような有期労働契約の申込みについても同条が適用されるとしても,控訴人が定年前の労働条件と本件提案を比較して問題とするのは主として賃金の格差であるところ,被控訴人の就業規則上,賃金表は存在せず,パートタイム従業員もそれ以外の従業員も,主たる賃金は,能力及び作業内容等を勘案して各人ごとに定めるものとされているから,パートタイム従業員とそれ以外の従業員との間で,契約期間の定めの有無が原因となって構造的に賃金に相違が生ずる賃金体系とはなっていない。したがって,定年前の賃金と本件提案における賃金の格差が,労働契約に「期間の定めがあることにより」(同条)生じたとは直ちにいえない。
 そうすると,いずれにしても,本件提案が,労働契約法20条に違反するとは認められない。
 ウ 公序良俗違反等を主張する点について
 控訴人は,本件提案は高年法の趣旨に反するもので,公序良俗に反すると主張する。
 高年法は,「定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進(略)等の措置を総合的に講じ,もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与すること」を目的とし(1条。なお,同法にいう「高年齢者」とは55歳以上の者をいう(同法2条1項。同法施行規則1条)。),65歳未満の定年の定めをしている事業主に対して,雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置として,一定の公法上の義務(同法9条1項所定の高年齢者雇用確保措置を講じる義務等)を課すものである。
 同法9条1項に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件の雇用を義務付けるといった私法上の効力を有するものではないものの,その趣旨・内容に鑑みれば,労働契約法制に係る公序の一内容を為しているというべきであるから,同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為,例えば,再雇用について,極めて不合理であって,労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し,到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は,継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり,事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として当該高年齢者が有する,上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得ると解するべきである。
 その判断基準を検討するに,継続雇用制度(高年法9条1項2号)は,高年齢者の65歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり,「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されており,導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ,後二者は,65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり,当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち,当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており,仮に,当該定年の前後で,労働者の承諾なく労働条件を変更するためには,別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば,継続雇用制度についても,これらに準じる程度に,当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度,確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり,このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する。また,有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても,再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に,有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されないものと解される(同法3条所定の労働契約の諸原則もそのような解釈を補強するものである。)。したがって,例外的に,定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには,同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。
 以上を踏まえて,被控訴人において本件提案をし,それに終始したことが,高年齢者雇用確保措置の一つである継続雇用制度の導入の趣旨に反する違法なものといえるかを検討する。
 本件提案は,定年退職前はフルタイムの労働者であり,フルタイムでの再雇用を希望していた控訴人を短時間労働者とするものである。一般に,労働時間の短縮自体は労働者に不利益ではなく,控訴人がフルタイムを希望したのも,長時間労働することが目的ではなく主に一定額以上の賃金を確保するためであると解される。そこで,賃金についてみると,控訴人の定年前の月額賃金(33万5500円)を時給に換算すると1944円になり(弁論の全趣旨),本件提案における時給900円はその半額にも満たないばかりか,月収ベースで比較すると,本件提案の条件による場合の月額賃金は8万6400円(1か月の就労日数を16日とした場合)となり,定年前の賃金の約25パーセントに過ぎない。この点で,本件提案の労働条件は,定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって,本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには,そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。
 この点につき,被控訴人は,店舗数減少の影響を挙げる。前提事実のとおり,確かに平成25年以降,被控訴人の店舗数は減少傾向にあり,控訴人が定年退職した前後を通じて,店舗数の減少が見られ(ただし,前提事実のとおり,近時においては増加しており,これが一時的現象か否かは不明である。),本件提案時,被控訴人において店舗数減少を見込んでいたとの説明自体にはそれなりの根拠があったといえる。また,控訴人の担当する業務内容は,定年退職前に実際に担当していたもの及び本件提案において担当することが想定されていたもののいずれについても,基本的には店舗ごとの会計書類の確認・入力といった機械的な作業であり,同部署の他の従業員が担当するような伝票を起票する業務や責任者としての業務等はなく(控訴人本人,弁論の全趣旨),その業務量は,店舗数減少の影響を直接的に受けやすいものであったといえる。さらに,前記認定のとおり,控訴人の定年退職後,そのポストに新たな人員配置がなかったにもかかわらず,同部署のその余の事務職員の時間外労働に明らかな増加がなかった。これらの事情からすれば,平成25年以降の店舗数の減少の影響により,そもそも被控訴人において控訴人を定年退職後に再雇用する必要性がそれほど高い状況ではなかった可能性は否定できないし,再雇用後さらに控訴人の業務量は減少し得る状況であったといえる。以上によれば,本件提案において,被控訴人が控訴人に対し短時間労働者への転換を提案したことには一定の理由があったといえる。
 しかしながら,①本件提案における控訴人の決算業務に係る担当店舗数は43店舗とされており,定年退職直前の46店舗とさほど変わらないものであるところ,店舗の決算業務が控訴人の主たる業務であったと認められること(〈証拠略〉,控訴人本人,弁論の全趣旨)も考慮すれば,控訴人の担当業務の量が本件提案において大幅に減ったとまではそもそもいえないこと,②被控訴人の店舗減少の実績は,控訴人の定年退職の前後を通じて1割弱(平成25年からの比較においても2割程度)の減少にとどまっており,しかも,それが定年直後に一時に生じたと認めるに足りる証拠はないこと(被控訴人において,上記実績値以上の店舗減少を合理的に見込んでいたと認めるに足りる証拠はない。),③本件提案において,控訴人の担当すべき業務の範囲は定年退職前のものよりも(若干ではあるが)限定的なものとされていると解されるが,担当から外された業務の中には,棚卸表の入力・送付等といった,店舗数減少と完全には連動していないもの(すなわち,店舗数が減少したからといって直ちに同業務の全てが無くなるわけではないもの)も含まれており(〈証拠略〉,弁論の全趣旨),被控訴人の定年退職を機にその担当業務を本件提案の内容に限定するのが必然であったとまではいえないこと,④控訴人は被控訴人に入社以来一貫して本社で事務職の業務に従事していたが,かつては決算業務以外の人事や経理関係の事務を担当したこともあるところ(控訴人本人),平成24年の高年法改正により高年齢者雇用確保措置が義務付けられてから控訴人の定年まで2年以上あったのであるから,被控訴人において,控訴人の継続雇用についての希望の有無等を確認した上,本社事務職の人員配置及び業務分担の変更等の措置を講じ,予め定年後の再雇用において控訴人の担当する業務量をフルタイム稼働に見合う程度にしておくことも可能であったと考えられること(被控訴人は,決算業務以外の業務を担当していた当時の控訴人の業務成績が劣悪であった旨主張するが,これを認めるべき証拠はない。),そして,⑤控訴人としては,定年時の賃金を基準として再雇用時の条件が提示されるものと期待することが想定されるところ,控訴人の定年時の賃金が,被控訴人の採用する年功序列的な賃金体系によって担当業務に比して高額になっていたというのであれば,被控訴人において,予め,これを是正するなど,控訴人に過大な期待を抱かせることのないように何らかの方策を執ることが可能であり,また,望ましいといえることを総合考慮すれば,本件提案によった場合の労働時間の減少(1か月当たりの労働時間が,定年前には172.5時間であった(弁論の全趣旨)のに対し,本件提案によれば継続雇用後には96時間(1か月16日勤務とする。)となっており約45パーセント減となっている。)が真にやむを得ないものであったと認めることはできない。そうすると,月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。被控訴人は,控訴人は兼業により収入を増加させることが可能であった旨主張するが,本件提案における勤務日及び勤務時間等に照らし,兼業が容易であったとは認められず,そもそも,労働者の希望がないのに兼業可能を理由に勤務日・勤務時間を減らし,その結果賃金収入を減少させることは不当というべきである。なお,労働時間が減少しても,極端な収入減少にならないような時間給とすれば問題はないが,本件提案ではそれがなされていない。したがって,本件提案において,控訴人を所定労働時間が一般従業員より短いパートタイマーとして再雇用するものとしたことが,事実上賃金の大幅減少に影響を与えたといえる。また,後記認定事実によれば,被控訴人は,パートタイマーの賃金単価を一般従業員のそれより低くする運用をしていることが窺え,この点でも,控訴人をパートタイマーとして再雇用するものとしたことが,賃金の減少に事実上影響しているとみられる。その他に,定年退職後の再雇用において,賃金を定年前より減額することが許されないとまでは解されないこと,本件提案における時給は,被控訴人におけるパートタイマー従業員の時給に比べれば高額であること(〈証拠略〉。ただし,被控訴人の他の事務職員の賃金を時給に換算した金額と比べると若干低額である(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)),本件提案による賃金減少に伴い,高年齢雇用継続基本給付金が月額1万4610円程度が(ママ)給付される見込みであったこと等を併せ考慮しても,本件提案を正当化する合理的な理由があるとは認められない。付言するに,継続雇用制度に基づく再雇用における賃金を労働者が生計を維持できない程低額にすることは,特段の事情がない限り許されないと解すべきであるが,他方,高年齢雇用継続基本給付金等と合わせれば生計維持が可能でさえあれば,定年前の賃金からの減額率がいかに大幅であっても許されるとはいえない。当該労働者が必要とする収入の額は考慮要素の一つではあるが,前記のとおり,継続雇用制度において,定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度,確保されることが前提ないし原則となると解されることからすれば,考慮要素として特別重きを置くことはできない(ただし,控訴人の生計への影響は,後記のとおり慰謝料の額の算定に際しては軽視できない。)。

 以上によれば,被控訴人が,本件提案をしてそれに終始したことは,継続雇用制度の導入の趣旨に反し,裁量権を逸脱又は濫用したものであり,違法性があるものといわざるを得ない。よって,控訴人の主張するその余の違法事由(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条違反の有無,団体交渉の経緯の違法等)を検討するまでもなく,控訴人に対する不法行為が成立すると認められる。 

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