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立命人のコラム―これはこれでありでは?

朝日新聞の8月11日付のコラムに「北朝鮮化する日本」という記事が掲載された。

 

表面的には、刺激的なタイトルなうえに、現在、連日のようにNHKニュース等がミサイルの脅威を報道しているイメージの中で、日本と北朝鮮を一緒にする、というセンスは、どうなのだろうか、と思うところなのだと思う。しかし、それが公正な論評にとどまる限りは言論で対抗すべきものだ。

 

立命館大出身の箱田哲也解説委員のコラムは以下のとおりだ。国際畑で立命館大学出身。安倍首相と同様、二度にわたり首相をつとめた西園寺公望公が自由の気風の校風として知られる。もっとも旧帝大とはいえ、東大、京大にはかなわないから術としては独自の切り口が必要になってくる場面が多いし、官製学校と異なり犯行権力の教員も多い。ホリエモン氏がいうとおり教育が洗脳だとしたら官製学校を出ている人とリベラルを基調とする立命人で物事のとらえかたが違うのは必然かと思う。

 

箱田氏のコラムは以下のようなものだった。しかし、冷静な分析が必要ではないか。

 

立命館は、戦前でもリベラルな雰囲気ができたときにできた学校だ。その点、真の民主主義が達成された時点を引き合いに出すのは、革命を経験しているわけではない日本では、明治維新や戦前のそうした教育がなされていた時期を回顧するのはある程度必然ではないか。

 

要するに、コラムは、公私混同疑惑が持ち上がった日韓の指導者の対応の分かれ道はいったいなんなのか、という点が本質である。

氏のコラムによると、歴史的に韓国は市民が立ち上がって圧制を覆した成功体験がある。不当な権力行使に敏感、と指摘されている。

そういえば、西園寺公望公が影響を受けた欧米は主流のドイツとは異なりフランスであった。そしてフランスにも圧制を市民の力で、立ち上がって退治した成功体験があるからデモもよく起こる。あながちピント外れな紹介ではあるまい。

 

この点、韓国では、憲法裁判所がバククネ元大統領に対する罷免判決を出した。革命的かつ非暴力というのも、適正な手続きが踏まれたのではないか、という点は、たしかに近代史では特筆されるべき事項だろう。実は日本にも最高裁について、憲法裁といくつかの最高裁の小法廷を設置するという改革案もあった。これらは園部元判事や泉元判事のオーラルヒストリーなどの著書に詳しい。日本では、着想はあったが実現されなかった制度であるのだ。

 

そして、ややコラムの論理は飛躍するのだが、安倍首相が金正恩氏に似ているという論旨となっていく。それは、韓国のサイドが日本の官僚が安倍首相はすばらしいとばかりいう。何かに似ていると思ったら金正日同志はというあれだ・・・。というような感じに続く。もっとも、安倍首相は小泉首相と異なり、①小さな政府志向ではない、②失敗を経験し長期政権のため安定感がある、③最低賃金法の引き上げなど社会権の充実という元来のリベラルの主張を本旨とする社会族の一面があることを見落としているように思われる。

 

そういう問題はあるが、公私混同疑惑、安倍首相の思想に陶酔して学校を作ろうとしたものの不祥事、財務省が不当に安く国有地を当該学園に売却しようとしたこと、腹心の友などと呼ぶ学園に対する獣医学部設置による法律による行政の捻じ曲げ疑惑などは本来、適正手続きの中で正されても良い。ところが、プサン大使が個人的な集いでの発言のメモで更迭されたように、日本では「安倍首相を批判してはいけない空気」がある。対抗言論もあまり説得的な論証ができていないように思う。

 

その点では、疑惑の段階で公私混同疑惑を主要な問題として罷免した韓国憲法裁との違いの引き合いが論旨なのではないか。

軍事独裁政権の重い縛りを解き、韓国の民衆が自由を勝ち取って今年で30年になる。

そんな節目の年に、「絶対権力」と言われる現職大統領を革命的に、しかも非暴力で引きずり下ろしたわけだから、韓国の帯びた熱は簡単には下がらない。

ソウルであった30周年記念の国際会議をのぞくと、人々の陶酔感を肌で感じた。その際、何人かの韓国側出席者から同じような質問を受けた。

権力者の公私混同にまつわる疑惑が浮上したという点では日韓とも似ているが、日本社会はどうしてかくも平穏なのか、という問いだ。

状況が違うしなあ、と答えを考えていると、日本留学の経験がある学者が割り込み、「国民性の違い。日本は選挙で意思を示す」と解説した。

韓国には市民が立ち上がって圧政を覆した成功体験がある。今回の大統領弾劾(だんがい)もそうだが、独裁復活のにおいが漂う不当な権力行使には極めて敏感なだけに「日本は自由社会なのになぜ」と考えるのも無理からぬことか。

また、日本の一連の騒動は妙に韓国側を納得させていることも知った。「日本は法治や行政が成熟した先進国という印象だったが、実はそうでもないのね」「韓国特有かと思っていた忖度(そんたく)という概念は、日本にも根付いてたんだ」など、どこか安心したように感想を語るのだった。

確かに日本の民主主義のイメージは傷ついたかもしれないが、日本留学経験者の指摘通り、東京都議選は安倍政権に大打撃を与えた。

それに今は勢いづく韓国だって、いずれ民意と現実のはざまで苦悩の時を迎えよう。最高権力者の首はすげ替えたが、感情に流されず法理に基づき前大統領を裁けるのか、民主主義の真価が問われる。

そういえば、関係者の間では数年前から「日本が韓国化した」とささやかれてきた。

かつての韓国に、何もかも「日本が悪い」と批判する風潮があったように、最近の日本でも単純な韓国観が広がり、それが嫌韓につながっているとの指摘だ。

ソウル滞在中、日本通の韓国の重鎮とそんな話をしていると、こう切り返された。

 「ある日本のトップクラス官僚など、口を開けば安倍首相はすばらしいと絶賛する。何かに似ていると思ったら、『偉大な指導者、金正日(キムジョンイル)同志は』というあれだ。もう韓国を通り過ぎたんじゃないか」

……。

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